教育講話記録 感謝の気持ちで
君たちにとっては、『卒業』という言葉が、否応なしに重く感じられるようになってきたのではないか、と思います。
昨日、偶然十何年ぶりに知人と会いました。その方はもう五十歳を少し過ぎた方で、以前はこの地区では有名なスーパーの取締役をしていたのですが、
半年ほど前に別のやはり同種の会社に引き抜かれて、同じような立場で活躍されている、私の友人であります。
その方は、私に、「半年前に職場を変わったけれども、私も五十を過ぎたんです。もうこれからはお返しの人生だと思って、仕事をしているんですよ。
そう思ったら、道は開けてゆくのですね。本当にそうなんです。
毎日いろいろなことが起こります。これでもか、これでもかっていろいろな問題がやってきます。
まるで自分を試しているかのように、困難苦難がやってくるんだけれども、一つの目標に向かって、『自分はもう社会にお返ししよう、お返しの人生だ。
常に感謝の気持ちを持ち続けよう』、として、生活していると、いろいろな問題も、ぱーっと道が開けてくるんです。すごいことです。」と話されました。
なるほど、と思いました。私も実感として、少しですけれども、『感謝の大切さ』というものを感じているからです。
人間はすでに多くのものを与えられています。私自身もそうです。君たちだってそうです。いろいろと不満もありましょう。
自分の思い通りにならないこともありましょう。でも、それはどこを基準に考えているか、ということです。「こうして健康でいられる」、ありがたいことではありませんか。
「毎日元気に学校に通える」、ありがたいことではありませんか。日本という国に生活していることで、他の貧しい国に生まれた場合とは、天と地ほどの差が、恵まれたことが、すでに与えられています。
勉強なんて、めんどくさいな、と思う人もいるでしょう。人は、黙っていると楽な方へと進んでいますから、そうした気持ちも起きる場合もあります。
でも、君たちは字が書けるでしょう。本が読めるでしょう。そんな基本的なことだってできない人が、君たちと同じ年齢でも世界では大勢いるのです。
鉛筆の代わりに銃を持っているとか、あるいは家族を養うために働いている。お父さんは戦争で死んでしまった。あるいは大けがをして動けなくなってしまった。
男手は自分だけ、働いて家族が生活できるようにしなければならない…、そういう子供達も大勢いるのです。
ペンの代わりに銃を持っているなんて、かっこいいな、と思う人もいるかも知れませんが、それは映画やドラマの世界にあこがれているだけです。
常に死と隣り合わせの、緊迫した状況に君たちは耐えられますか。恐らくは逃げ出したいでしょう。やめたいでしょう。
できることならば、学校で平和に勉強したいでしょう。本を読みたいでしょう。彼らは恐らくは、そう思っている、そう願っているだろうと思うのです。
つまり、日本人として生まれている、というだけを考えてみただけでも、どれほど恵まれているか、ということです。
普段はそうしたことすら考えたことがない、いつしか、毎日の生活が当たり前のことで、それが普通になっているのです。
その普通が基準となって、もっともっとと求めているから、満たされない状態、欲しい欲しいという状態になってしまうのです。
でも、与えられているです。足りないところだけを見て、それを求めても苦しいだけでのです。
そうではなくて、すでに多くのものを与えられているのだから、それに感謝することです。
そうすると、人はお返しをしなければいけなくなります。お返しの人生には、不幸はなくなるんです。
欲しい、欲しいという気持ちではなく、差し上げたいという気持ちに転換されるからです。
卒業まで残り少なくなってきました。君たちは、この中学校で、多くのものを得ました。多くのものを与えられました。多くの学びがありました。
もちろん、いいことばかりではなかったでしょう。つらいこともあったと思います。悲しいこともあったと思います。嫌なこともあったでしょう。
でも、それら一つ一つが、経験として君たちの心の刻まれているのです。どれも決して無駄なものはありません。それぞれ学びの材料があります。
悲しみを深く経験した人は、人の痛みというものをよく理解できる、本当に優しい人間になっているのです。大きな苦しみを経験した人は、心が鍛えられました。
ちょっとやそっとでは負けない、不撓不屈の精神とでもいうべき、強い強い心になっているはずです。人を恨むこともあったでしょう。傷つけたこともあったでしょう。いろいろなことがあったでしょう。
それを、できたらこの中学校にいる間に精算したい、まとめておきたいと思うのです。相手を傷つけてしまったなぁ、と思った人は、謝罪してください。
どうしても直接言えないのであれば、心の中でもいいですから謝ってください。それ以外にも、自分なりの方法でクリアにしておくのがよいと思います。
その一つの方法として、与えられたことへの感謝を込めて、何か一つでもいいですから、心を込めたお返しをしてください。掃除ということで、教室の床を心を込めて磨く、ということでもいいんです。
クラブで後輩の指導をする、ということでもいいのです。何かできるはずです。探せば何かある。一つだけでいいですから、何か奉仕をして欲しい。
心を込めて、感謝を込めて、思いを込めたことをして欲しい、と思います。
私も君たちから得たことは数多くあります。本当にありがたい気持ちでいっぱいです。お互い、残り少ない中3という時期を、感謝の思いで過ごしてゆきたい、と思います。
落ち着いて行動しようとか、校則違反をしないようにしよう、などというような消極的なことではだめです。マイナスを作らないように…ということではなくて、積極的にプラスを作ってください。
何か一つ、心を込めて、相手のためになることを、感謝の気持ちを込められることを、やってみましょう。
そうすることで、君たちは、今でも輝いていますが、さらに、輝きを増して、立派な人間になってゆくでしょう。